朝、窓を開けると何処からかキンモクセイの香りがします。暑い暑いと言いながらも季節は夏から秋へと移り変わり、そしてこれから冬を迎えていく、ちょっと切ない気持ちになる季節です。そして香りとともに昔の記憶が蘇ってきてほんの一瞬、ふんわりとした気持ちになれます。香りだけではなく、かつて聞いていたアーティストの曲が流れると、当時の様々な想いがよみがえることもあります。時間に追われる日々の中で過去を思い出せる瞬間です。
「回想する過程は、しばしば癒す力の効用がある」
癒し効果を利用した診療方法に「回想法」と呼ばれるものがあります。米国の精神科医が提唱したものらしく、2000年頃から普及された認知症予防・介護予防として取り組まれています。ただ昔話をするだけではなく、自身の楽しかった時期の記憶を楽しくおしゃべりすることで、脳への「快」の刺激によりポジティブな感情や記憶を引き出し認知症予防や進行の抑制にも期待できるそうです。過去を回想することが、精神安定や認知機能の改善につながることも。
この療法の対象は高齢者の方なのですが、新しい記憶を保つことが困難となった状態でも、若いころの記憶は保持されていることが多い特徴を活用しているものです。
昔のことを思い出して言葉に出してみたり、過去に自分と似たような体験をした人の話を聞いたりすることが刺激となり、脳への情報の出入りが増え、その結果、脳全体が活性化し、満足度や自尊心も高まり、認知症の進行の予防にもつながると言われています。
実際、回想法により認知機能、コミュニケーション力や気分の改善の効果も報告されています。
心を元気に
この回想法を意識的に取り入れることで仕事や時間に追われ慌ただしく過ぎていく日々の生活の中に、ちょっと過去を振り返って思い出に浸る時間を積極的に作ってもいいのかなと思います。心の安定はもちろん、昔のことを自力で思い出すようにすると、脳に新しい神経ができて、切れていた記憶の回路がつながるそうです。「記憶の筋トレ」をするように、思い出す癖をつけて、日々懐かしいものに触れて回想する習慣をつけると心の若返り効果にも期待が。
回想は自分の人生を振り返り、今後歩んでいく人生を再認識する積極的な動きのようにも思えます。もちろん、振り返りたくない過去もありますが、そこからも教訓を得ることが出来ればプラス作用となりますし、また過去の出来事を思い出すことが自分の人生を見つめ直すきっかけとなり、日々の生活への意欲を回復させることにもつながるのです。
過ぎ去ったことを思い出すことは後ろ向きなことではなく、過去と向き合い、これまでの 人生を振り返ることで自己の価値を見出そうというものなのかも知れませんね。
そしてそのことがこれからの人生を歩んでいくための活力となることでしょう。